イモの調理~料理の基本【調理と理論#2】
前回から「料理の基本を体系的にまとめてみよう」シリーズをやっていまして、第2回目は「イモ類の調理」についてです。
前回の穀物編と同じく、イモ類もデンプンが主成分であります。では、穀物とイモの違いは一体何なの?というと、
- 種子ではなく、地下茎や根
- 水分量が多く約70~80%
- そのため穀類よりも腐るまでの貯蔵期間が短い
- 水を加えずにそのまま加熱するだけでデンプンが糊化してくれる
- ビタミンC、カリウム、食物繊維が多く、栄養的には野菜のような性質がある
といった特徴が主なところですね。
おおざっぱに言うと、「吸水してすぐ調理できる状態の米にさらにビタミンやミネラルも多く含まれている感じのもの」みたいな感じで、なかなかに優秀な食材であったりします。
消費量としては、
- じゃがいも
- さつまいも
- さといも類
- やまいも類
の順に多く、順に見ていこうかと思います。
じゃがいもの調理
1. 料理に適したじゃがいもの選び方
じゃがいもを選ぶにあたって、
- 粉質イモ
- 粘質イモ
という2種類のものに大別されることを知っている必要があります。
それぞれどんな特徴があるのかというと、
- 粉質イモは、ホクホクとした食感
- 粘質イモは、煮崩れしにくい
といった感じです。このような特徴の違いが出る理由としては、デンプンの含有量に違いがあるためです。
粉質イモはデンプンの量が多く、粘質イモは少ないのですが、デンプンの量が多いと加熱したとき糊化して膨らみやすく、圧力が加わり煮崩れを起こします。そして代わりにデンプン特有のモチモチ感が加わりホクホクとするわけです。
ちなみにそれぞれの代表的な品種としては、
- 粉質イモは、男爵やキタアカリ
- 粘質イモは、メークインや紅丸
さらに、それぞれどんな料理に適しているのかというと、
- 粉質イモは、ホクホク感を生かしてポテトサラダやコロッケ
- 粘質イモは、煮崩れさせたくないようなカレーやシチュー、肉じゃがなどの煮物料理
と相乗が良いです。
というわけで、まず作りたい料理があったらその料理に適した品種のじゃがいもを選びましょうと言った話でございました。
しかし、同じ品種でも収穫されてからの日数で状態も変わってくることが分かっています。
具体的には、
- 貯蔵期間の長いイモほど、崩れやすくホクホク感も増す
- 貯蔵期間の短いイモほど、煮崩れしにくい
という特徴を持っています。貯蔵期間が長くなれば粉質イモの特徴に近づき、短くなれば粘質イモの特徴に近づくというわけです。
というのも、じゃがいもだけでなく野菜全般の細胞同士というのは、ペクチンという細胞同士をくっつけているコンクリートのセメントのような役割をした物質によって形を保っています。
しかし、これは収穫されてから日数が経つにつれ熱に弱くなり、加熱時に形を維持できず崩れやすくなってしまいます。なので、貯蔵期間の長いイモほど加熱したときには細胞間の連結が弱まり煮崩れを起こしやくなってしまい、逆に収穫されてから間もないイモほど細胞と細胞同士の連結も強固で、煮崩れも起こしにくくなるというわけです。
つまり時期や貯蔵期間によっては、男爵のような粉質系のイモでもホクホクしなかったり、メークインのような粘質系のイモでも煮崩れしやすくなってしまうこともあるわけですな。
ちなみに、手元にあるイモが粉質系のイモなのか、粘質系のイモなのかを見分ける簡単な方法として、イモを塩水に沈めるという方法があります。100mlあたりの水に12gの塩を溶かして、12%の食塩水を作りそこにイモを沈めてみてください。
これはイモに含まれるデンプンと水との比重を利用した方法で、
- 粉質系のイモ(ホクホクしたイモ)→水に完全に沈む
- 粘質系のイモ(煮崩れしにくいイモ)→水に完全に浮く
- 中間(インカのめざめみたいなイモ)→途中まで浮いて止まる
といった感じになります。
これはデンプンは水よりも重いので、じゃがいもに含まれるデンプンの量が多くなるほど、水に深く沈むため起きる現象です。
前述の通り、粉質イモの方が含まれるデンプンの量が多いわけですが、収穫期が遅く十分に成熟したイモや貯蔵期間の長いイモのほうがう、未成熟なイモだったり貯蔵期間の短いイモよりもデンプンの量が多く重くなります。
具体的には、未成熟なイモは約7~10%のデンプン含有量でその比重は約1.05です。対して、成熟したイモはデンプン含有量が約15~18%で比重は約1.1弱になります。12%の食塩水の比重が約1.08なので、デンプン含有量の少ない未成熟なイモは浮き、成熟したイモは沈むという結果になるわけです。
2. じゃがいもの加熱
●熱いうちに潰すvs冷めてから潰す
じゃがいもを加熱する目的は、
- デンプンを糊化させること
- ペクチンを軟化させてやわらかくすること
の2つです。米や小麦粉のようにデンプンを糊化させるときには水と一緒に加熱する必要がありますが、イモの場合水分含有量がもともと多いので、必ずしも水を加える必要がないのが便利なところ。イモの中に含まれている水分を使ってデンプンの糊化が可能なわけです。
そして、糊化したデンプンはイモの細胞の中に含まれます。なので、加熱したじゃがいもを潰すときに、
- 細胞を潰してしまうと、デンプンが細胞の外に流出して粘りのあるものに
- 細胞を潰さないように細胞同士を引き離してあげると、粘りの少ないものに
なります。実際どちらを目指すべきなのかというと、ほとんどの場合粘りの少ないものにしたほうがよいです。
例えば、ポテトサラダとマッシュポテトを作り、それぞれ粘りのあるものと粘りのないものに仕上げ味覚テストを行った実験(R)でも、
- ポテトサラダ:12人中、10人
- マッシュポテト:12人中、12人
では、具体的にどのようにしたら細胞を壊さずにじゃがいもをマッシュできるのかというと、ズバリ加熱直後にじゃがいもを潰すことです。
これは加熱直後のじゃがいもというのは、細胞同士をつなぎ合わせているペクチンの接着力が弱くなり、少しの力を加えるだけで細胞同士が離れてくれるためです。
ちょうど接着剤が熱で溶けてしまうのと似ていますな。
粉吹きイモをつくるときに熱いうちに鍋の中で揺すってやると、じゃがいもの表面の細胞が簡単に剥がれるのはこのためです。
しかし、時間が経って冷めてくるとペクチン質がだんだんと固まってきて、強い力を加えないと潰れなくなってしまいます。すると細胞が強い力に耐えられず、潰れて中のデンプン質が出てきてしまい粘りが出てしまうわけです。
とはいえ例外もあって、いももちなどのように粘り気を出したい料理も中にはあります。そのようなものを作りたいときは逆に冷ましてから潰したほうが粘り気が多く出ておいしくなるでしょう。
●茹で方
じゃがいもを茹でるときには、沸騰したところに入れるのではなく、水からゆっくりと加熱するのが一般的です。
これはイモのように直径が大きなものは、一気に加熱してしまうと芯まで火が通る前に表面だけが火が通ってしまうためです。芯は生なのに、表面は過度に糊化してぐずぐずという状態を回避しているわけですね。
また、50〜70℃の加熱では野菜類によくみられる硬化現象が起こります。そして、一度硬化してしまった野菜はその後加熱しても軟化しにくいという性質があります。
なので、途中で加熱をやめて再加熱するとホクホクとしたじゃがいもに仕上がらないということが起きるので注意しましょう。
反対に、煮崩れを予防したいときなどは、60℃前後の温度で15分ほど保ったあとでもう一度煮るというテクニックもあります。
ちなみに、他の煮崩れを予防するテクニックとして、牛乳中でじゃがいもを煮るとカルシウムとペクチンが結びついて軟化が抑えられるということもわかっています。
逆に塩味をつける目的などで、0.8〜1.0%程度の食塩を加えて煮た場合、食塩中のナトリウムイオンが、ペクチンとカルシウム(水道水中にも微量に含まれます)の結合を妨げるので軟化が促進されます。なので過度に煮崩れを起こしたくないときは、塩分の含まれているものを最初に加えないほうがよろしいでしょう。
また、茹で方による味の違いですが、皮付きで丸のまま茹でるのが最も味が良いとされています。これはカットしてじゃがいもを茹でてしまうと、茹で湯にじゃがいもの成分が溶出されるために起きる現象です。
じゃがいもは加熱により甘みが増しますが、二つ割りのじゃがいもの場合10分でショ糖の含有量が約2〜3倍まで増えます。しかしその後、茹で湯の中に溶け出してしまうために、徐々に甘みも減少してしまいます。
甘みの他にうま味などの成分も溶出してしまうので、皮付きのまま茹でてできる限り成分の溶出を抑えてあげると出来上がりはおいしくなります。
しかし、難点としては時間がかかることですね。例えば100〜150g程度の中サイズのじゃがいもで火が通るまで約40分ほど時間がかかってしまいます。
「そこまで時間をかけれなんねえよー!」、みたいな人は二つ割りなり四つ割りにして時間を短縮すれば良いと思いますが、小さくカットすればするほど味も落ちてしまうので、その辺は好みで調整するとようでしょう。
●変色
じゃがいもを調理するときに決まって問題になるのは変色の問題です。
じゃがいも切って放置しておくとピンクや紫になってしまったということを経験したことのある方も多いと思いますが、これはじゃがいもの細胞内に含まれるチロシンなどのポリフェノール類が空気中の酸素と反応して起こる褐変現象と呼ばれるものです。
結果としてメラニンという、人が日焼けしたときに茶色くなるものと同じ物質ができて変色するわけですが、傷んでるわけでもや腐敗しているわけでもないので食べられます。しかし、なんとなく気にはなりますよね。
これを防ぐためによく使われている手法は、切ったじゃがいもを水に漬けておくというものです。こうすることにより、酸素との接触を防ぎ、変色するのを抑えてくれます。
また、ピンクや紫などの褐色に変色するのではなく、黒ずんだ色に変色することもあります。
これは酸素による変色ではなく、調理に使う水などに含まれる鉄イオンとじゃがいも中に含まれるクロロゲン酸などのポリフェノール類が反応することにより起こる現象です。
水に漬けておいても起こる現象なので、防ぐことは難しいのじゃないかと思うかもしれませんが、これは漬けておく水や茹でるときの水に酢などを加えて酸性にしておくことで酵素の活性が弱まり防ぐことができます。
その他に、ポテトフライなどのように高温の加熱を必要とするものを作るときにも着色が起こります。これはアミノアルボニル反応(メイラード反応)と呼ばれる、肉などを焼いているとだんだんとキツネ色になってくるあの現象です。
この変色は適度なものであれば香りが良くなり良いのですが、あまりに進行が早いと中まで火が通る前に焦げ付いて、風味が悪くなってしまいます。
これは糖分やアミノ酸の量が多いとより早く色づくので、切ったあと水に漬けておいたりして糖やアミノ酸を流出させておくことで抑えられます。
また、じゃがいもは低温で保存することでデンプンが分解され糖類が増えていくので、冷蔵保存したものはフライなどの高温で調理するのは避けたほうが良さげ。しかし、常温に戻して数日しばらく置いておくとすると糖分が減少していくということもわかっています。
さつまいもの調理
他のイモ類と比較して、さつまいもは糖類の含有量が多いので甘味を強く感じます。じゃがいもと比べてみると、約1.2倍の糖類がさつまいもには含まれています。
なのでその甘味を生かしてそのまま加熱し、蒸し芋や焼き芋などにして食べられることが多いです。
そこで、さつまいもを選ぶときはより甘いものが好まれるわけですが、同じさつまいもでも貯蔵期間と加熱方法により甘味の度合いに違いがあることが分かっています。
まず貯蔵期間による違いですが、これは貯蔵期間が長ければ長いほど甘味が強くなります。
というのも、イモに含まれるデンプンを糖に変えて甘味を引き出すには、唾液などに含まれるアミラーゼという酵素が必要なのですが、さつまいもには生の状態ですでに多くのアミラーゼが含まれています。
そのため寝かせれば寝かせるだけ、さつまいもに含まれるデンプンがアミラーゼと反応し、デキストリンやマルトースなどの糖類が生成されて、甘味が増えていくという仕組みです。
また、じゃがいもと同様に冷蔵庫などの低温の場所で保存することでも甘味が増していきます。しかし、さつまいもは低温障害になりやすい食材のひとつで、10℃以下で保存しておくと腐りやすくなります。常温で保存しておけば、1~3ヵ月は日持ちするので、冷蔵庫に入れないほうが無難でしょうな。
次に加熱方法による違いです。時間をかけて加熱した蒸し芋や石焼き芋を思い出していただければわかると思いますが、さつまいもはゆっくり加熱することで甘味が増します。
これはさつまいもに含まれるアミラーゼのうち、
- α-アミラーゼは55℃前後
- β-アミラーゼは70~75℃前後
という比較的高い温度に至適温度を持ち、この温度帯をできるだけ長い時間かけて通過してあげることで甘味が増すのです。
なので、電子レンジなどで急激に加熱して火を通したものが甘味の少ないものになってしまうのはこのためです。
さといもの調理
さといもの特徴はなんと言っても、独特の粘り気があることです。
この粘りは、さといもに多く含まれる糖たんぱく質によるもので、茹でるときに煮汁に溶出して煮汁の粘度が高くなるため、気を付けないと吹きこぼれることがあります。
麺類を茹でたときに、小麦粉が茹で汁に溶けて吹きこぼれてしまうのと同じような現象ですな。
これを防ぐためには一度で完全に火を通すのではなく、一度熱湯で2分ほど茹でて表面近くのデンプンを糊化させてから再度煮ることで、煮汁への粘質物の流出を抑える方法があります。
また煮汁の中に、
- 食塩(1%)
- 酢(5%)
- みょうばん(1%)
などの調味料を加えて茹でるとさらに煮汁の粘度が低下して吹きこぼれを抑えられます。
しかしこのとき、酢やみょうばんなどを加えると煮汁が酸性になり、さといもの表面が硬くなり煮えにくなってしまいます。とは言え、内部は硬くならず柔らかいままなので、煮崩れを防ぎたいときや、おでんなどの長時間煮込むものを作るときは酢などの酸性のもので一度煮ると良さげなようです。
ちなみに表面が硬くなることで、味が染み込みにくくなるのでは?と考える人もいるかもしれませんが、その心配はなくしっかりと味が染み込むようです。
ステーキの表面に焼き目をつけると周りがコーティングされて肉汁が閉じ込められるのだ!という都市伝説にも似たところがありますな。
やまいもの調理
やまいもの種類としては、
- 長くてまっすぐな、長芋
- 自然に自生している、自然薯
- 手のひらのような形をした、いちょういも
- ボール状の形をした、つくねいも
など多種多様であります。いずれにしてもやまいもには違いないので、ほとんど栄養価は変わりません。
やまいもの大きな特徴としては、デンプンを含むにも関わらず生食できるという点です。
これは、糖タンパク質がさといもと同様、豊富に含まれており、切ったりすりおろしたりしたときに独特の粘りが出て、食感や口当たりが良くなるためと言われています。
デンプンの分解酵素であるアミラーゼが強く、デンプンの一部が分解されることが要因であると言われることもありますが、これは誤りであるとの見方が今のところ強めです(R)。
生のやまいもを調理する際に気を付けなければいけないのは、
- 皮をむくときに手がかゆくなる
- 空気に触れさせると変色する
ことです。
手がかゆくなるのは、やまいもに含まれるシュウ酸カルシウムという針状の結晶が皮膚に刺さることによるものです。
手袋をして防ぐこともできますが、熱に弱いことも分かっていますので、軽く湯通しなどして加熱してから皮をむくと、若干刺激が抑えられるようです。
変色については、さつまいもにも含まれるチロシンが酸化されることによって引き起こされるものです。
これは酢水に浸けておくことで変色が抑えられ。
どうぞよしなに。
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