中華料理の技法「油通し」の効果と、家庭で簡単にやる方法
これは何か特別な材料を使っているとか、火力とかの設備が違うなどの理由ももしかしたらあるのかもしれませんが、家庭ではあまりやらない「油通し」という技法を使って、ひと手間かけています。
中国では泡油(ハオユウ)とか過油(クオユウ)とか走油(スオユウ)などとも呼ばれているものです。
まあ簡単に言うと、具材を炒める前に140℃前後の低温の油でサッとくぐらせる下ごしらえの方法なんですけど、これをすることにより調理が素早く行えるのはもちろんなんですが、料理のクオリティがグッと上昇するわけですよ。
酢豚や回鍋肉とかの定番の中華料理だけじゃなくて、単なる野菜炒めとかいろいろな料理にも応用可能です。
ひと手間でプロの料理に近づくのならやらない手はないですよね。
とは言え、
- 家庭じゃいちいち材料を揚げる手間がめんどくさい
- 油通しごときでそこまで違いがあるのか疑わしい
- カロリーが気になる
などいろいろあると思うので、油通しの効果と家庭でも簡単にできる方法を解説したいと思います。
本当に油通しで美味しくなるの?
炒め物を作るときに事前に具材を油通ししておくことで、おいしさにどんな変化があるのかを調べてくれた実験(1)があります。
実験では、
- ピーマン
- 白菜
- 鶏むね肉
をだいたい同じぐらいの大きさになるよう用意して、それぞれ150℃の温度で油通しをした後に炒めました。
一般的な油通しの温度が140℃前後なので、ちょっと温度は高めですが許容範囲内でしょう。
その際、
- 10秒油通ししたもの
- 20秒油通ししたもの
- 30秒油通ししたもの
- 油通ししなかったもの
を比べました。
その結果何が分かったかというと、炒めるだけのものと比べて、
- 野菜(ピーマンと白菜):10~20秒油通ししたものは硬さ(=歯ごたえ)が増した
- 鶏むね肉:10~30秒油通ししたものは柔らかくなった
と、油通ししたものは食感が良くなることが分かりました。
炒めるだけのものより加熱する工数が多い分、野菜がくたっとしたり肉が固くなるのかと思いきや実際は逆のことが起こるんですねえ。
また、実際に人に食べてもらう官能テストも行ったのですが、
- ピーマン・白菜・鶏むね肉のすべてにおいて、油通ししたものは油通ししなかったものに比べてハッキリとおいしさが増す
ことが確認されました。
どのくらい違いがあったかのかというと、8~9割ぐらいの参加者がその違いを判別できたそうです。
炒める前に油に通しただけなのにここまでの変化があるとは、なかなかビビりますなあ。
どうして美味しくなるの?
まず、なぜ野菜の歯ごたえが良くなるのかについて。
これは野菜が加熱の温度によって柔らかくなったり硬くなったりする性質を持っているからです(2)。
野菜は65℃程度の温度では柔らかくならず、生のものに近い状態を保ってくれます。
しかし、80℃を越したあたりから一気に軟化が進み、歯ごたえがなくなります。
水島弘史シェフも野菜炒めは弱火で炒めることを推奨していますが、
意外にも野菜は短時間で一気に加熱するよりも、超弱火でじっくり火を通すほうがシャッキリと歯ごたえは増すのです。
150℃程度の温度で油通ししても野菜の中心温度は70℃にも満ちません。しかし、この温度でも十分火が通るため炒める時間が短くて済み、歯ごたえが損なわれないのです。
一方、生の状態からいきなり炒めてしまうと、炒める際、中まで火が通るのに時間がかかり野菜の中心温度も上がるので柔らかくくたっとしてしまうわけです。
また、油通ししたものと油通ししていないものの細胞を観察してみても油通しした野菜は細胞が崩れておらず、生の状態に近い状態を維持していたようです。
野菜の煮物だったらいいですけど、炒め物の野菜はシャッキリしていたほうがおいしいですよね。
次に、肉が柔らかくなる理由ですが、
野菜とは逆で、肉は高い温度だと硬くなる性質を持っています。
当たり前っちゃ当たり前ですよね。フライパンで長いこと焼き続けた肉なんて想像しただけでパサパサしてることが分かります。
また、硬くなるだけじゃなく肉は低温で調理することによりうま味も増すことが分かっています。
ステーキの焼き方でも書きましたが、
- 低温で調理することにより、肉のうま味が増す
- 高温で調理すると、肉汁(=うま味)が外にあふれ出す
ことが分かっています。
油通しした場合、中心温度は60℃よりも低くなるので、肉のうま味は増すわ、うま味は逃がさないわ、硬くはならないわで良いことずくめなわけです。
油通しでカロリーダウン
また、油通しすることで油っこくなるんじゃないの?と思う人もいるかもしれません。
しかし、実際には油通しすることにより、全体の油の量が減ることが分かっています。
どういうこと?と思うのは当然だと思うんですが、事実そうなんですよね。
ただし、白菜などの葉のある野菜に関しては、中華料理でも油通しすることは少ないらしく、油通ししたあとの油の量は残念ながら増えるらしいです。
さすがに油通しも万能ではないのですな。
しかし先の実験のピーマンや鶏むね肉に関しては、油通ししなかったものと油の量を比べると、
- ピーマン:油の量に変化なし
- 鶏むね肉:油の量が1/2になった
という感じに。
その理由に関しては、詳しいことはよくわかっていないのですが、
- 油通しによって具材の表面がコーティングされて、それ以上油が染み込まないため
- 肉が収縮したために、表面積が減ったため
などと言われております。
今後の研究に期待ですな。
家庭でも簡単に油通しする方法
油通しすることに色々とメリットがあることはわかりますが、やはり過程でやるのは少しめんどくさいですよね。
そこで、普通に油通しするのと同じような効果のある方法を2つご紹介します。
1つは、油を入れた湯で茹でる方法です。
これは武蔵野調理専門学校の川畑裕康先生が提唱している方法です。
具体的には、
- 家庭用の鍋にだいたい1リットルぐらいの湯を沸かす
- そこに大さじ2杯(60cc)の油を入れる
- 具材を30秒ほど茹でて完了
といった感じです。
具材の量によってもお湯や油の量は変わるらしいですが、これにより鍋の表面に浮いている油が具材をコーティングしてくれて、油通しをしたときと同じ効果が得られるんだとか。
全く同じ効果が得られるとは正直思いませんが、何もしないよりはクオリティが増すことは間違いないようですな。
個人的には湯に油を落とさなくても、具材に油をまぶしたうえで茹でたほうが油が具材をコーティングしてくれるような気がしてるんでそっちの方法でやっています。
2つ目は、電子レンジを使う方法です。
方法としては、
- 耐熱容器にカットした具材を入れる
- 油を全体にいきわたるように混ぜる
- ラップをして、600Wで1~3分加熱する
といった感じです。
こっちのほうが手軽ですかね。また、具材の量によっても加熱時間は変わるので様子見で。
加熱し過ぎてしまうと、野菜がくたっとなったり、水分が出てしまうのでご注意を。
また、油が全体になじんでるので炒める時の油はほとんどなくて大丈夫です。
そして電子レンジのいいところは、具材を外側からでなく内側から加熱するので、中から水分が出にくいところですね。
冷凍のものを解凍するときも電子レンジで少しずつやった方がおいしくなるという研究もありますし、加熱しすぎなければ電子レンジでやると細胞が壊れないのでいいわけです。
お湯でやる方法も電子レンジを使う方法もどちらにも共通しますが、
火の通り方に違いがあるため、肉や野菜など、火の通りにくいものと通りやすいものは分けてお試しください。
まとめ
油通しすることによって、
- 野菜がシャッキリする
- 肉が柔らかくなる
- 全体の油が少なくなる
と、中華料理や野菜炒めなど、料理が一気にプロ並みに近づきます。
簡単にやるなら、
- お湯に油を入れて具材を茹でる
- 具材を油と混ぜて茹でる
- 具材を油と混ぜて電子レンジで加熱する
という方法で同じような効果が期待できるかと。
是非お試しあれ。
どうぞよしなに。
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