強火でステーキを焼けは嘘だった!?弱火で焼く方がおいしい理由


厚くカットされた塊の肉を、丸ごと豪快にフライパンなどで焼き始め、そのあとナイフとフォークで口いっぱいに頬張る。初めてステーキを食べた時のこと思い出すと、こんな贅沢な食べ物があっていいのか!と心が躍ったものです。

ステーキを自宅で焼いて食べようと思ったら、まずフライパンを熱して強火で焼き始める人が大半だと思います。肉の外側だけをまずカリッとさせて、中の肉汁を中に閉じ込めて、うま味を逃がさないようにするためにです。

しかし実は、強火で焼き始めても肉汁を中に閉じ込めることはできないということを知っていますか?
最近の研究ではむしろ、弱火で火を通した方がうま味の流出が少ないということが分かっています。

ステーキは弱火で焼き始めろ!

弱火でステーキを焼き始めたほうが良い理由は、
  1. 強火で焼いて肉を固くしないため
  2. うま味を閉じ込めるため
の2つです。

1.強火で肉は固くなる

第一に、強火で肉を焼き始めてしまうと当然ですが弱火で焼くときと比べて肉の温度が高くなります。するとどうなるかというと、肉が固くなります。

肉に火を通すとなぜ固くなるのかというと、肉の中に含まれるミオシン、アクチン、コラーゲンの3種類のたんぱく質が熱によって変性し、固くなるからです。

3種類のたんぱく質はそれぞれ違う温度で変性するのですが、一番低い温度で変性するのがアクチンというたんぱく質。

このたんぱく質が変性すると、肉が白くなり始め赤い部分がなくなります。
肉を焼いて、火が通ったなー、と見た目で分かる状態ですね。

なので、ステーキを焼くときはアクチンの変性をできるだけ抑える必要があるわけですが、
オランダの科学誌『Meat Science』の研究(1)によると、アクチンは60℃から変性がはじまり、温度が上がるにつれ硬直具合も激しくなるそうです。

また、70℃の温度で短時間加熱するぐらいならまだ肉に弾力性は残るのですが、70℃で長時間加熱したり、80℃以上の加熱になったりすると明らかに肉が固くなります。

フライパンの種類にもよると思いますが、基本的にはフライパンをとろ火~弱火で熱したもので肉を焼くと、肉は50℃から60℃ぐらいになります。
対して強火で焼いたものは、60℃をはるかに超える200℃ぐらいの温度になってしまいます。

なので、できるだけフライパンを高い温度にせずに調理することが、肉を固くしないためのコツになります。

2.弱火でうま味が閉じ込められる

第二に、弱火で焼くと強火で焼くよりも逆にうま味が閉じ込められます。

日本テレビ「所さんの目がテン!」(2017年5月21日放送分)で行われていた実験があるのですが、この実験ではステーキ肉を加熱する温度によって肉汁がどれぐらい流出するの?ということを調べてくれています。

そこで何が分かったかというと、
  • 肉が60℃を超えてきたあたりから、肉汁があふれ出す
  • 肉が100℃にもなると、目に見えて肉汁がドバドバとあふれ出す
ということが分かりました。

つまり肉汁を閉じ込めるためにも、できるだけ弱い温度で加熱したほうが良いわけですな。
何となく感覚で判断すると、弱火から徐々に焼いてしまうと肉汁がより出そうなイメージがあるんですけど、実際にやってみると逆の結果が出るわけです。

また、アクチンとは別の肉に含まれるたんぱく質にミオシンというものがあるのですが、これは変性するとうま味成分に変わることが分かっています。

東京海洋大学大学院の食品生産科学部門の研究(2)によると、ミオシンは40℃から50℃の温度帯で最も変性が活発になるということが分かっています。

つまり、低温で焼くとうま味が閉じ込められるだけじゃなくて、うま味そのものが増すということも分かっているわけです。

これはますます、ステーキ強火論者の立場がなくなる実験ばかりですな。

強火で肉汁を閉じ込めるというのは嘘?

そもそもどうしてステーキは強火で焼き始めろ、なんて説がまん延したのかというと、
もともとは19世紀のドイツの物理学者、ユストス・フォン・リービッヒという人物が、肉を加熱すると表面のたんぱく質が凝固することを発見したことから始まったものです。

そのあと彼はこのことを過大解釈し、凝固したたんぱく質の膜が肉汁を中に閉じ込めるんじゃないか?という仮説を立てて本まで出しちゃったわけです(参考:Research on the Chemistry of Food)。

この本の中で彼は、

沸騰する水の中に肉を入れると、表面から内側に向けてタンパク質が直ちに凝固し、この状態で買わもしくは殻が形成され、外側の水が肉の塊の内部へ染み込むことはもはやない。こうすることで、料理人としてはできる限りの風味成分を肉に留めることになる。

とまで断言しちゃっています。
この仮説はすぐにヨーロッパ各地に伝わり、次いではアメリカなど世界中にも伝わって、大した実験もされぬまま一般化されてしまったというわけです。

強火で加熱すると肉汁が外にあふれ出てしまうことはすでに書いたので、これは間違っていることが分かりますね。

仕上げは強火で

弱火でステーキを焼くと、固くならずかつ肉汁も閉じ込められるということは書きましたが、これだけでは本来のステーキのおいしさを味わうことはできません。

というのもステーキのおいしさの要素の一つに、高温で焼き上げたときの香ばしい香りがあるからです。

強火で焼いて焦げ目がつき香りがでるこの反応をメイラード反応と呼ぶのですが、とろ火~弱火程度の火加減ではこの反応は起きないことが分かっています。

具体的には、肉の温度が120℃ではまだ焼き目はうまくつかず、160℃以上で焼いた場合にはじめて食欲のそそる焼き目ができるらしいです(3)。

なので、弱火で好みの焼き加減にしたら、最後の仕上げに強火で表面だけサッと焼き色を付けることが重要になってきます。

このときフライパンで最後強火で熱しても良いのですが、それだと火が中まで通ってしまう割合がまだ少し高いので、おすすめはバーナーとかを使ってさらに高温&短時間で焼き目をつけてしまうことです。

ステーキだけじゃなくて他の肉料理にも使えて結構重宝するしそんなに高価なものじゃないので、いちおうおすすめのバーナーのリンクも貼っておきます。最大1300℃の火力が使えて、短時間に加熱ができるのでおすすめです。


まとめ

ステーキを自宅で焼くとき、とろ火~弱火で焼くと、
  • 肉が固くならない
  • 肉汁が流れ出ない
  • うま味成分が増える
という効果があるので、是非お試しを。

仕上げに強火で仕上げることはお忘れずに。

どうぞよしなに。

コメント

  1. 某ステーキチェーンで働いてるものです。
    一考となる記事をありがとうございます。
    少し前の記事へのコメント失礼します。
    お肉の厚さが何cm位で、弱火で何分調理されたのかや、硬かった場合はお肉の厚さが何cm位で強火で何分調理されたのかなどもしあれば教えて頂けたら嬉しいです。

    厚さ2cm位のステーキだとレアもしくはミディアムレアが好みの人には高温で表面だけ焼いて滅菌する形が一番よろしいかと思っています(食品衛生管理の水準程度で)。

    厚切りのステーキを家庭で買う機会がない(近くのスーパーで牛肩ロースの厚みは1.5~2cm程度)なので、美味しく食べるためにそのあたりの家でできる調理法が少し気になっています。

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