ハンバーグの肉汁を閉じ込めるための捏ね方の科学


好きな洋食メニューとしても常に上位に組み込まれるほど人気を博しているハンバーグですが、

  • 家で作ってもどうしてもプロのようにはできない
  • お店で食べるのとはどうも違う
といったことを感じている方は少なくないようです。


というのもハンバーグの肉だねを焼いている途中に、肉汁がドバドバと洪水のように流れ出てしまって、仕上がりがパサパサになってしまうのが原因のよう。

また、いろいろなハンバーグのレシピを検索してみると、その大半は肉だねの作り方に重点を置いているものがほとんどです。
ハンバーグという料理自体、基本は肉だねを作って焼くだけというシンプルなものであるがゆえにそうなるのはいたしかたないのですが、
肉汁が逃げてしまいパサパサになるのも実は、焼く工程以上に肉だねを準備している段階でほぼ決まってしまっているのです。

焼く時の温度を気にしたり、フライパンや調理器具の種類を気にしたりする前にもうすでに決着はついていたというわけですな。

中に入れる副材料は何にするのかということを考えると、検討すべき点はいくつもあるのですが、
今回は肉と塩のみを使って、肉汁がたっぷり閉じ込められたジューシーなハンバーグを作る方法をご紹介いたします。

ハンバーグは「パン」と同じ構造の料理である

パンを作るとき、水と小麦粉を練ることによって小麦の中のグルテニンとグリアジンが絡み合いグルテンができ、網目構造を作ります。そして発酵によりその網目構造の中に空気が入り込むことによって焼いたときふわふわとした食感が生まれます。

対してハンバーグは、ひき肉を捏ねたとき肉の中のミオシンという二重らせん状のたんぱく質がたがいに絡み合うことによって網目構造を作り粘りを出します。そして焼いたときに溶けた脂が網目構造の中に閉じ込められ、噛んだときにじゅわっと肉汁のあふれる状態になるのです。

つまり、パンを作るときにグルテンがしっかりと形成されないと発酵の段階でガスが抜けてしまい固いパンになるのと同じで、
ハンバーグを作るときも、しっかりとこねて粘りを出さなければ、肉汁が逃げてしまいパサパサになってしまうわけです。

粘りを出すための方法

ではどのようにして肉だねに粘りを出していけばよいのでしょうか。
ポイントは3つ。以下それぞれ見ていきましょ。

1.塩を入れるタイミングと量

肉だねに塩を入れるタイミングは、肉を冷蔵庫から取り出したあと他の材料は混ぜずに真っ先に入れるのが良いとされます。

というのも、肉だねに塩を入れる理由は味付けのためだけではないから。
味付けだけが理由であればステーキなどを焼く時と同様に焼く直前に表面に塩を振るか、もしくは玉ねぎなどの副材料を全部混ぜ合わせた後に塩を入れればいい話。

しかしそうしないのは、肉に対して塩の量が多いほど粘りが出やすいからなのです。

ある実験では、
  • 塩を入れない肉だね
  • 肉の重量の0.8%の塩を加えた肉だね
  • 肉の重量の1%の塩を加えた肉だね
  • 肉の重量の4%の塩を加えた肉だね
を用意してそれぞれ手で50回こねるということをしました。

結果、塩の量が多くなるほど粘りが出てジューシーさも増したという。

というのも、粘りの元であるミオシンを構成するアミノ酸には荷電しているものがあり、通常状態ではプラスとマイナスで反発して絡み合わない部分があります。

しかし同時にミオシンは塩水に溶ける作用を持っており、塩を加えることにより肉の水分が浸透圧によって浮かび上がり塩水が出来ます。
そこにミオシンが溶けることにより、プラスに荷電したナトリウムイオンとマイナスに荷電した塩化物イオンが、荷電したミオシンとくっついてくれることによってミオシン同士の反発が抑えられ、より絡まりやすくなるというからくり。

なので、できるだけ肉の重量に対して多くの塩を最初に混ぜ合わせてやることが重要なので、副材料など入れる前の純粋なひき肉の状態で塩を入れてやるのがポイント。

そして、ヒトが食べ物をおいしいと感じる塩分濃度は0.8%~1%ほどなので、さすがに塩分濃度4%とかなるとしょっぱくて食べられません。
ということで、入れる塩の量は他の副材料も後で入れることを考慮して肉の重量の1%ほどにしておくのがよろしんではないかと。

2.肉だねの温度~手ごねはNG

常温に出しておいて暖かくなった肉を使っても粘りが出ないことがわかっています。
同じように手でこねて肉を温めることも粘りを減らすことにつながります。

というのも、ミオシンが粘りを出す温度は0℃~5℃が最適で、その範囲外でこねても粘りが出ずらいということが分かっているからです。

手ごねで作ると機械や調理器具で作ったものよりもおいしくなるという先入観を持っている方は、私を含めて少なくないと思いますが、実際間違いだったというわけですな。

肉の温度を30℃、20℃、15℃、10℃、5℃、1℃にしたものをそれぞれこねて焼いた実験でもやはり、
  • 30℃、20℃のものはボソボソしていておいしくない
  • 15℃、10℃のものはそこそこジューシー
  • 5℃、1℃のものは非常にジューシー
になるという結果に。15℃や10℃はギリギリ味の評価は許容範囲ではあるものの、それ以上の温度になると劇的に味は落ちるらしい。

肉の温度でそこまで味に変化があるのなら、肉をこねる時の手の温度による温度上昇も気になるところ。

実際、同じ実験で手ごねによる肉だねの温度上昇を記録しているが、
こねる前のひき肉の温度が5.6℃、手の表面温度が34.1℃、室温20.4℃の条件下で50回こねたところ、ひき肉の温度は10.3℃に上昇。さらにもう50回こねると、14.7℃までひき肉の温度が上昇したのだそう。

いずれもギリギリの温度範囲内ではありますが、肉を常温に出しておく時間が長かったり、他の副材料も入れることを考えると、手ごねによって肉だねの温度はすぐに許容範囲外にいってしまうでしょう。

たまに、それじゃあ手を氷水とかで冷やしてこねればいいんじゃないかっていう人もいるんですけど、人間の体って常に血液が巡っているんで、多少氷とかで冷やしたくらいじゃ一瞬で元の体温に戻っちゃうんですよね。

というわけで、肉だねをこねる時は手でではなく、へらやめん棒などの調理器具を使ってこねることを推奨します。

3.こねる時間

「こねればこねるほどおいしくなる」という人もいれば、「こねすぎはダメだ」という人もいたりします。
実際どちらが正しいのでしょうか。

手ごねによる温度変化の影響を減らすため、ミキサーで肉を30秒、3分、10分混ぜ調理した実験では
  • 30秒:粘りもあまり出ていなく、焼いたときのジューシーさは少ない
  • 3分:焼いたときもジューシーでおいしい
  • 10分:ジューシーさは3分のものと区別つかないが、明らかに固い
ということで、粘りがある程度出たあといくらこねても、ジューシーさに変化はないが、あまりこねすぎると肉が固くなるということがわかりました。

ということで、こねればこねるだけおいしくなるというのはデマだったようですな。むしろこねる時間が長くなることによる温度上昇のリスクのほうがデメリットとなり得るので、
こねる肉の量にもよるでしょうが、ある程度肉に粘りが出たら3分ほどでこねるのをストップしたほうがよろしいと思います。

まとめ

ということで、ジューシーなハンバーグにするための肉の捏ね方のポイントをまとめると、
  • 他の材料はなにも入れず、塩と肉だけを最初に混ぜ合わせる
  • 塩の量は0.8%~1%ぐらい
  • 冷蔵庫から出して冷たい状態のひき肉をすぐに使う
  • 手ではこねずに、調理器具を使ってこねる
  • こねる時間の目安は3分程度
といった感じです。

それでは、どうぞよしなに。

参考書籍:男のハンバーグ道 土屋敦

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